パーソナルトレーニングでケガを避けるために、通う側にできることは「体調や気になることを先に伝える」「つらさを伝える合図をあらかじめ決めておく」「不安が残る運動はいったん止める」の3つに集約されます。いずれもトレーナー任せにせず、利用者が自分から動く必要がある行動です。
この記事では、消費者庁 消費者安全調査委員会が公表した消費者事故等調査報告書「パーソナルトレーニングにおける事故」(令和8年5月27日公表)で、消費者に提供することが有用と整理された内容をもとに、セッションの前・中・後という時系列で、その場で実行できる形に並べ直します。
- 公的な調査報告書が、利用者側に伝えるべきこととして整理した4つのポイント
- セッション前に申告しておきたい項目のチェックリスト
- 声を出せないときのために、合図をどう決めておくか
- 「大丈夫」と言われても、不安が残る運動を止めてよいという考え方
- 終わった後に残った違和感の扱い方と、医療機関に相談する目安
- ジムを選ぶ段階で見ておける、安全面のサイン
まず前提:マンツーマンでもケガは起こりうる
パーソナルトレーニングは、トレーナーがそばで見ている分だけ安全性が高いと考えられがちです。ただ、公的な調査の対象になる程度には事故も起きています。
消費者庁 消費者安全調査委員会の報告書は、調査の背景として、国民生活センターが2022年4月に公表した報告書の内容を挙げています。そこでは、パーソナル筋力トレーニング(トレーナーから1対1で指導を受ける筋力トレーニング)での危害に関する相談が2017年度以降の約5年間に105件寄せられ、4人に1人は治療に1か月以上を要し、中には「神経・脊髄の損傷」「筋・腱の損傷」をした人もいたことが示されています。また、指導するトレーナーについて法的な資格保有の義務等はなく、各事業者に委ねられている状況であることも示されています。
これはパーソナルトレーニングを避けるべきという意味ではなく、指導の質を外から見分けにくいサービスである以上、利用者の側にも確認できることがある、という前提の話です。消費者安全調査委員会は、消費者に提供することが有用な情報として次の4点を整理しています。この記事の残りは、この4点を時系列に並べ直したものです。
- 無理のない低めの負荷から始める、継続して行う運動が、長期的にみると安全で効果的であること
- 気になることを伝えること(過去のケガや骨折、いつもと違うこと)
- 疲労や痛みの伝え方を確認すること
- 不安が残る運動はいったん止めること
ここで紹介するのは、利用者側が事前・当日・事後にできる確認の手順です。これらを行えばケガが起きないと保証できるものではありません。指導内容や設備の側の要因もあり、すべてを利用者がコントロールできるわけではない、という前提で読んでください。
セッション前に伝えておくこと
報告書は、気になることを伝える理由として「トレーナーは、あなたの体調や痛みの全てを感じとることはできません」と述べています。見ればわかるだろう、聞かれなかったから言わなかった、という前提は成り立たない、ということです。
報告書が「伝える例」として挙げているのは次の6つです。初回のカウンセリングだけでなく、当日の状態が普段と違う日にも、その都度伝える対象になります。
| 伝える項目 | 伝えるタイミング | 伝え方の例 |
|---|---|---|
| 服用している薬 | 初回/内容が変わったとき | 「◯◯の薬を飲んでいます」と薬の名称や目的をそのまま伝える |
| 病気とは診断されていないが、健康診断で指摘されていること | 初回/健診の結果が出たとき | 「診断はされていませんが、健診で◯◯を指摘されています」 |
| 過去のケガや骨折 | 初回 | 部位・時期・現在も残っている感覚があるかをセットで伝える |
| 体調、寝不足、空腹 | 当日、開始前 | 「今日は睡眠が3時間です」「昼から何も食べていません」 |
| 関節の痛み、違和感 | 当日、開始前/出てきた時点 | 部位を指し「この動きのときに引っかかる感じがあります」 |
| 不安なこと、いつもと違うこと | 気づいた時点でその都度 | 言語化しづらくても「いつもと違う感じがします」で十分 |
「伝え方の例」は、報告書の項目をその場で言える言葉に置き換えたものです。正確な説明ができなくても、部位・時期・いつもとの違いが伝われば、トレーナー側が確認を挟む材料になります。申告した内容は、その日のメニューや負荷の決め方に反映される部分です。プログラムがどのような手順で組まれるのかを知っておくと、自分の申告がどこに効くのかも見当がつきます。個別設計の流れはパーソナルトレーニングのプログラムはどう決まる?個別設計の7ステップと確認ポイントで整理しています。
「合図」を先に決めておく
報告書が挙げる3点目は、疲労や痛みの伝え方を確認しておくことです。理由として「運動中、声を出せないときもあります」と書かれています。息を止めている場面や、限界に近い場面では、そもそも言葉が出ません。そこで、始まる前に決めておくことが必要になります。
報告書に沿って整理すると、事前にトレーナーと話し合っておく項目は次の3つです。
- いつ、どんなときに、何を伝えればよいか — 「痛み、苦しさ、疲労、不快」などのつらさを感じたときの伝え方を確認しておきます
- 何かを伝えたいときの合図(言葉や動作) — 声が出せない場面を想定して、動作でも伝わる形を決めておきます
- 合図を出したら、どのような対応をしてもらえるか — 合図を出した後に何が起きるかまで確認しておきます
抜けやすいのは3つ目です。合図だけ決めても、出したときに「あと3回」と返ってくるのか、その場で中断してもらえるのかが分からなければ、実際には出しづらくなります。「この合図を出したら、そこで一度止めてもらえますか」と、対応までセットで確認しておくのが扱いやすい形です。
なお、この話し合い自体がしづらいと感じる場合は、合図の設計より前の段階の問題かもしれません。体験時に確認できる視点や、合わないと感じたときの対処はパーソナルトレーナーとの相性はどう見極める?体験で確認する視点と合わないときの対処にまとめています。
セッション中に持っておきたい2つの原則
セッションが始まってから判断を求められるのは、負荷をどう考えるかと、違和感を覚えたときに止めるかどうかの2つです。どちらも報告書が触れている論点です。
強い負荷をかけるほど良い効果が出るとは限らない
報告書は「運動には良い効果がありますが、ケガをする危険もあります」としたうえで、「強い負荷をかけるほど良い効果が出るとは限りません」と述べています。そして、無理のない低めの負荷から始める、継続して行う運動が、長期的にみると安全で効果的である、と整理しています。
つまり、1回のセッションで追い込んだ度合いよりも、続けられる設定になっているかのほうが優先される、という考え方です。序盤から高い負荷を提案されたときに「まずは低めから始めたい」と申し出るのは、報告書の整理に沿った要望であって、わがままではありません。
継続を前提にすると、週あたり何回通うかも設計の一部になります。目的や回復、予算からの考え方はパーソナルトレーニングの頻度はどう決める?目的・回復・予算から考える週あたりの回数で扱っています。
不安が残る運動は、いったん止めてよい
報告書には、トレーナーの「大丈夫」「限界を乗り越えないといけない」という指示に従ってケガをしたという相談が寄せられていることが記されています。そのうえで、不安や痛みを感じたら、いったんその運動は止め、不安の内容を伝え、話し合って運動の内容や方法を見直すことが挙げられています。
ここでの手順は「止める」で終わりではなく、3段階です。
- いったん止める(続けながら相談しようとしない)
- 何が不安なのかを言葉にして伝える(「左肩の奥に引っかかる感じがある」など)
- 話し合って、その運動の内容や方法を見直す(種目を変える、可動域を狭める、重量を下げる、など)
「大丈夫」と言われると、専門家がそう言うのだから自分の感覚のほうが間違っているのだろう、と考えてしまいがちです。ただ、痛みや不安を感じているのは自分の身体です。止めた結果その日のメニューが途中で終わっても、それは失敗ではありません。
セッション後:残った違和感をどう扱うか
終わった直後は気にならなかったのに、帰宅後や翌日になって違和感が出てくることがあります。この場合も、報告書が挙げる「関節の痛み、違和感」「いつもと違うこと」を伝える対象です。次回を待たずに気づいた時点で連絡し、少なくとも次回の開始前には共有しておきます。
伝える内容は、部位・出はじめた時期・どの動作で出るか・強くなっているか弱くなっているかの4点で足ります。「昨日のセッションの後から、右膝の内側が階段を降りるときだけ痛みます」という程度の具体度があれば、次回のメニューを組み替える判断材料になります。
痛みやしびれ、腫れ、力が入らないといった症状が続く場合や強くなる場合は、トレーナーへの相談とは別に、医療機関を受診してください。症状の原因が何かという判断は医師によるものであり、トレーナーもこの記事も、その判断を代わりに行うことはできません。
それでもケガが起きてしまったときの対応の順序、保険や補償の考え方、契約前に確認しておく事項は、この記事の範囲外です。パーソナルトレーニング中の怪我と保険・補償の考え方|発生時の対応と契約前の確認事項を参照してください。
ジムを選ぶ段階で見ておけること
ここまでの行動は、いずれも「伝えられる」「止められる」ことが前提になっています。逆に言えば、それがしにくい環境かどうかは、契約前の体験や初回のやりとりである程度見えます。報告書の4点を、ジム選びの観察ポイントに置き換えると次のようになります。
- 初回に体調や既往を聞かれるか — 服用している薬、健康診断での指摘、過去のケガや骨折を確認する項目があるか。問診票やカウンセリングの中身を見ます
- つらさの伝え方を先に決めてくれるか — 合図の取り決めや、合図を出したときの対応まで説明があるか。こちらから聞いたときの反応も含めて見ます
- 中止の申し出をしやすい雰囲気か — 「今日はここで止めたい」と言ったときに、理由を確認して組み替える動きになるか
- 記録が残るか — 申告した内容や実施した種目・重量が記録され、次回に引き継がれるか。担当が変わったときにも同じ情報が伝わるか
報告書が示すとおり、トレーナーの資格保有に法的な義務はなく各事業者に委ねられているため、資格の表示だけで安全面を判断するのは難しく、上記のような運用面のほうが体験時には確認しやすい部分です。
これらを確認して通ったとしても、ケガの可能性がなくなるわけではありません。何かあったときに「いつ、何を伝えていたか」が双方に残る、という意味合いのほうが実際的です。
よくある質問
Q. 寝不足や空腹の日は、休んだほうがよいですか?
A. 休むかどうかを一人で決める前に、まず伝えることが先です。報告書は、伝える例として「体調、寝不足、空腹」を挙げています。状態を共有したうえで、その日の内容を軽くするのか、日を改めるのかを話し合う流れになります。体調そのものの判断が必要な場合は医療機関へご相談ください。
Q. トレーナーに「大丈夫」と言われたら、続けるべきですか?
A. 報告書には、「大丈夫」「限界を乗り越えないといけない」という指示に従ってケガをしたという相談が寄せられていることが記されています。不安や痛みを感じたら、いったんその運動を止め、不安の内容を伝えて、内容や方法を話し合って見直す、というのが報告書の示す進め方です。
Q. 苦しくて声が出せないときは、どうすればよいですか?
A. その場で対処するのは難しいため、事前の取り決めが必要になります。報告書は、運動中は声を出せないときもあることを踏まえ、何かを伝えたいときの合図(言葉や動作)と、その合図を出したときにどのような対応をしてもらえるかを、あらかじめ話し合っておくよう挙げています。
Q. 資格を持っているトレーナーなら安心と考えてよいですか?
A. 報告書は背景として、指導するトレーナーについて法的な資格保有の義務等はなく、各事業者に委ねられている状況であることを示しています。資格の有無だけを安全性の判断材料にするのは難しく、体調の聞き取りや中止の申し出のしやすさといった運用面も併せて見るのが現実的です。
Q. この記事の内容を実行すれば、ケガは防げますか?
A. 防げることを保証するものではありません。ここで扱っているのは、公的な調査報告書が「消費者に提供することが有用」と整理した情報を、実行できる手順に並べ直したものです。指導内容や設備側の要因もあり、利用者の行動だけで結果が決まるわけではない、という前提で受け取ってください。
まとめ
消費者庁 消費者安全調査委員会の報告書が消費者向けに整理した4点は、「低めの負荷から始めて続ける」「気になることを伝える」「疲労や痛みの伝え方を確認する」「不安が残る運動はいったん止める」でした。時系列に置き直すと、前は薬・健診での指摘・過去のケガ・体調や寝不足や空腹・関節の違和感・いつもと違うことの申告と合図の取り決め、中は不安を感じたら止めて話し合うこと、後は残った違和感を次回までに伝えること、になります。
いずれも、トレーナーが気づいてくれるのを待つのではなく、こちらから言葉にする行動です。それでも起きるときは起きますし、痛みやしびれが続くときは医療機関が先になります。ジムを選ぶ段階では、これらの申告や中止の申し出をしやすい運用になっているかを、体験時に見ておくと判断しやすくなります。
※ 本記事は公表資料に基づく一般的な整理であり、診断・治療・個別の医学的助言を行うものではありません。ここで紹介した確認や申告は、ケガが起きないことを保証するものではありません。痛み・しびれ・腫れなどの症状があるとき、また症状が続く・強くなるときは医療機関を受診してください。既往症のある方、服薬中の方、妊娠中の方、高齢の方は担当医の判断を優先してください。トレーニングの内容や感じ方には個人差があります。料金・サービス内容・安全管理の体制は各店舗の公式情報で最終確認してください。

